BDT論文

"A One-Factor Model of Interest Rates and its Application to Treasury Bond Options. (By F.Black, E.Derman, W.Toy)" *1


Black-Derman-Toy の原論文を読んでみようかと思います。
内容もさることながら、短い文章で、方程式を使わずに、それでも明晰にファイナンスモデルを説明する、というFisher Blackの文章スタイルを勉強したいというのもあって。


内容の要約

前書き

単純で用途の広い金利モデルとして、全ての証券価格・金利が1つのファクター―ショートレート(短期金利)―にのみに連動するものを考える。現在の長期金利とそのボラティリティを将来のありうべき短期金利からなるツリーを構成するのに用いる。このツリーは、金利に感応するすべての証券価格を求めるために使うことができる。

例えば、2年満期のゼロクーポン債を考える。このゼロクーポン債の価格過程からなるツリーは、以下のように計算できる。

  • 2年後には、現在時点でわかる、額面価格になる。
  • 1年後には、その時の短期金利で額面価格を割引いた価格になる。
  • 現在の価格は、現在の短期金利で1年後の債券価格を割引いた価格になる。

以上のプロセスを繰り返すことによって、現在の期間構造と矛盾しない価格過程が導かれる。そしてこの価格過程ツリーは債券オプションの価格付けとヘッジ比率を求めるのに必要になる。

"This article discribe..."

Key Pointは次の3つのこと。

  1. 基本的な変数は、ショートレート(短期金利)。年率換算された、1期間の金利。ショートレートはこのモデルの唯一のファクターで、これがすべての証券価格の変動を引き起こす原因となる。
  2. このモデルには2つの初期変数列が必要。1つはイールドカーブで、もう1つがボラティリティカーブ。この2つを合わせて期間構造と呼ぶ。
  3. 将来のショートレートの平均とボラティリティを初期変数列に合うように変化させる。

これから、すべての債券の金利が完全相関し、1期間の期待収益率がすべてショートレートに等しく、ショートレートが対数正規分布をもち、税金や取引コストの無い、仮想的な世界においてこのモデルがどのように機能するか説明する。

"Valuing Securities"

現在において価値Sを有する、金利に感応する証券を持っているとする。この価格が次の期にSuかSdに等しい確率で変化するとする。またこの時点のショートレートをrとする。すると1年後のこの証券価格の期待値は1/2(Su+Sd)となり、期待リターンは(1/2)*(S_u+S_d)/S - 1となる。今、証券の1期間での期待リターンはすべて同じで、ショートレートrに一致する仮定だったので、次が成り立つ。
 S=\frac{1}{2\times(1+r)}(S_u+S_d)   (1)

"Getting Today's Prices from Future Prices"

1ステップのツリーを用いることで、現在の価格と1ステップ後の価格を比較することができた。同様に、1ステップ後の価格と2ステップ後の価格を比較することもできる。そのためには、ショートレート過程とゼロクーポン債の価格過程の2つのツリーを必要とする(本文Figure B・下表参照)。もしショートレート(金利ツリー)が与えられたとすれば、ゼロクーポン債の価格はすぐに求まる。2年後は満期なので、額面価格の$100がその時点の価値である。1年後の価格は、その1年後の価格の期待値を割引く事で求めることができる。

金利ツリー            
現在 1年後 2年後
10% 11%
9%
価格ツリー            
現在 1年後 2年後
82.65 90.09 100.0
91.74 100.0
100.0
"Finding Short Rates from the Term Structure"

金利の期間構造は、価格の形でなく利回りの形で与えられる。価格がSであるN年ゼロクーポン債の年率yは次の関係を満たしている。
 S=\frac{1}{(1+y)^N}   (2)
同様に、1年後にSuないしはSdとなっているN年ゼロクーポン債の年率yu, ydは次のようになっている。
 S_{u, d}=\frac{1}{(1+y_{u, d})^{N-1}}   (3)
我々が求めたいのは、モデルの期間構造と現在の期間構造が一致するようなショートレート過程である。そこで、現在の期間構造が下の表のようである場合を考える。まず現時点のショートレートを求めてみる。まず式(2)によって、与えられた期間構造の利回りをゼロクーポン債の価格に直すことでS=90.09を得る。次に式(1)に戻って、1年ゼロクーポン債の価格Sは1年後にSu=100, Sd=100となる債券の現在価格だと思い出すことで、ショートレートrが10%と求まる。

Maturity
 (year)
Yield
 (%)
Vol of Yield
 (%)
  1   10   20
  2   11   19
  3   12   18
  4   12.5   17
  5   13   16
"Short Rates One Period in the Future"

以上で、2年ゼロクーポン債の利回りとボラティリティから1年後のショートレートを求める準備が出来た。1年後のショートレートをruとrdと置く。すると式(1)を用いることで、1年後の2年ゼロクーポン債(その時は1年ゼロクーポン債になっているが)の価格を求めることができる。また、2年ゼロクーポン債ボラティリティが19%であることからもru, rdの間に関係式が出る。以上から、ru, rdの連立方程式を求めることができる。

  • 81.16=\frac{100/(1+r_u)+100/(1+r_d)}{2\times1.1}
  • 19=\frac{\log(r_u)-\log(r_d)}{2}=\log(\frac{r_u}{r_d})/2

この2つの方程式を解くことで、ru=14.32, rd=9.79と求めることができる(訳注:2次方程式を解くなりExcelのソルバーを使うなりで求めることができる)。

金利ツリー
現在 1年後 2年後
10 ru = 14.32
rd = 9.79
価格ツリー
現在 1年後 2年後
81.16 100/(1+ru) = 87.47 100
100/(1+rd) = 91.08 100
100
Yieldツリー
現在 1年後 2年後
11 ru = 14.32
rd = 9.79
"More Distant Short Rates"

今までの復習をすると、現在のショートレートは、1年ゼロークポン債の価格から求められた。1年後のショートレートは2年ゼロクーポン債の価格とボラティリティから求めることが出来た。2年後のショートレートも3年ゼロクーポン債の価格とボラティリティから求めることができる様に見える。これを実行する。まず、ショートレートが対数正規分布に拡がっていることから、log(ruu/rud) = log(rud/rdd)であることが要請される(これにより二項ツリーは再結合する)。これより、rud = (ruu * rdd)^(1/2)がわかる。よって、未知数は実質的に2変数なので、ゼロクーポン債の価格から導かれる関係式と、イールドのボラティリティから導かれる関係式の2つの式で答えが一意に求まる。(訳注:具体的には、以下の表を元にソルバーで解く)すると、ruu = 19.40, rdd = 9.77, rud = 13.76と求まる。

最終的に、すべての期間のショートレートツリーを埋めると、一番下の図のようになる。

金利ツリー
現在 1年後 2年後 3年後
10 14.32 ruu
9.79 rud
rdd
価格ツリー
現在 1年後 2年後 3年後
71.18 43.74(1/(1+ruu)+1/(1+rud)) 100/(1+ruu) 100
45.54(1/(1+rud)+1/(1+rdd)) 100/(1+rud) 100
100/(1+rdd) 100
100
Yieldツリー
現在 1年後 2年後 3年後
12 5.35/(1/(1+ruu)+1/(1+rud))^0.5 ruu
4.42/(1/(1+rdd)+1/(1+rud))^0.5 rud
rdd
金利ツリー
現在 1年後 2年後 3年後 4年後 5年後
10 14.32 19.42 21.79 25.53
9.79 13.77 16.06 19.48
9.76 11.83 14.86
8.72 11.34
8.65

後半部分は僕の解釈を混ぜ込んでいます。計算式で値を直接求める手法がなさそうなので、ソルバーを利用したり等。


(オプション価値の導出の部分は省略)